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東京高等裁判所 昭和27年(う)3448号 判決 1954年3月26日

控訴人 被告人 丸山敏一 外一八名

弁護人 藤田馨 外一五名

検察官 小出文彦 大久保重太郎

主文

1、昭和二十七年五月九日言渡にかかる原判決中、被告人橘田侃に対し有罪の言渡をした部分及び被告人相良文良、同大村丁、同石原愿太郎、同内田辰雄、同河野要作、同長田勇作、同内藤一馬、同甘利芳作、同斎藤光、同丸茂美雄、同沢崎紳吉、同大石藤男、同田沢兵奈伊、同丸山敏一、同戸泉清、同五味重造、同長田辰雄に関する部分並びに同年七月七日言渡にかかる被告人長田美夫に対する原判決を破棄する。

2、被告人相良文良、同大村丁、同五味重造にそれぞれ懲役十年に処する。

3、被告人長田美夫を懲役九年に処する。

4、被告人橘田侃を懲役八年に処する。

5、被告人丸茂美雄を懲役七年に処する。

6、被告人石原愿太郎、同内田辰雄、同長田勇作をそれぞれ懲役五年に処する。

7、被告人河野要作、同内藤一馬、同甘利芳作をそれぞれ懲役四年六月に処する。

8、被告人斎藤を懲役四年に処する。

9、被告人沢崎紳吉、同丸山敏一をそれぞれ懲役三年に処する。

10、被告人大石藤男を懲役二年六月に処する。

11、被告人戸泉清、同長田辰雄をそれぞれ懲役二年に処する。

12、被告人田沢兵奈伊を懲役一年六月に処する。

13、原審における未決勾留日数中、被告人大村丁、同相良文良、同橘田侃に対しそれぞれ九十日を、被告人田沢兵奈伊に対し六十日を、被告人五味に対し二百五十日をそれぞれ右本刑に算入する。

14、但し被告人戸泉清、同長田辰雄に対し、この裁判確定の日から三年間、それぞれ右刑の執行を猶予する。

15、押収にかかる刷版機一台(当裁判所昭和二十七年押第一一八〇号の一四〇)、ローラー機一台(同押号の一四一)、木製機械台一台(同押号の一四二)及び偽造千円日本銀行券四千六百十枚(内三千二百三枚(同押号の一四七及び一五一)は被告人長田美夫より、内千四百七枚(同押号の三、三〇乃至三六、四一、四七、四九乃至五七、六六乃至一三二)は全被告人より)はいずれもこれを没収する。

16、原審における訴訟費用中、国選弁護人山田重次に支給した分は被告人田沢の、国選弁護人藤田馨に支給した分は被告人甘利、同橘田の、証人吉岡長雄に支給した分は被告人五味の、証人佐竹勝一郎に支給した分は被告人大村、同長田辰雄、同丸山の、証人小林武に支給した分は被告人大石、原審相被告人中野秀男の、証人深沢保雄に支給した分は被告人大村の、証人四科経晴に支給した分は被告人石原の、証人村田宣道に支給した分は被告人内藤の、証人坂本正臣、同羽田宇之吉に支給した分は被告人甘利の、証人木下千代造に支給した分は被告人田沢、証人小林高次郎に支給した分は被告人河野、証人赤尾俊二に支給した分は被告人相良の、証人蔦森賢治に支給した分は被告人沢崎の、証人鹿島平蔵に支給した分は被告人戸泉の、証人保坂健一、同長田とみ子に支給した分は被告人長田辰雄の、証人樋口兼平に支給した分は被告人長田勇作の、証人山村寛に支給した分は被告人内田の、鑑定人有泉信に支給した分は被告人橘田の、国選弁護人矢崎勘七、証人内田光孝に支給した分は被告人長田美夫のそれぞれ負担とする。

17、当審における訴訟費用中、国選弁護人堀嘉一に支給した分は被告人河野の、国選弁護人岡義順に支給した分は被告人甘利、同丸茂の、国選弁護人三浦斧吉に支給した分は被告人沢崎の、国選弁護人上川重徳に支給した分は被告人丸山の、国選弁護人向山義雅に支給した分は被告人五味の、証人村田宣造、同沢正志、同小松明に支給した分は被告人内藤の、証人古屋長に支給した分は被告人戸泉の、証人橘田きぬに支給した分は被告人橘田のそれぞれ負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人橘田侃の弁護人坂本英雄、被告人相良文良、同戸泉清の弁護人帯野喜一郎、被告人相良の弁護人上原秋三、被告人石原愿太郎の弁護人坂本英雄、被告人内田辰雄、同沢崎紳吉の弁護人古屋福丘、被告人河野要作の弁護人沖田誠、被告人長田勇作の弁護人青柳孝、被告人内藤一馬の弁護人三木義久、同堀内清寿(連名)、被告人甘利芳作の弁護人笠井寿太郎、被告人斎藤光の弁護人古明地為重、被告人大石藤男の弁護人古明地為重、同佐藤久四郎、被告人田沢兵奈伊の弁護人山田要次、被告人丸山敏一の弁護人藤田馨、被告人戸泉清の弁護人大塚喜一郎、同平岩新吾(連名)、被告人長田辰雄の弁護人青柳孝、被告人内藤、同大石、同田沢を除くその余の被告人十六名の弁護人布施辰治及び被告人斎藤、同戸泉の弁護人森長英三郎(連名)、並びに被告人相良、同石原、同内田、同河野、同甘利、同戸泉、同五味、同長田義夫こと美夫各本人提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、いずれもこれをここに引用する。これに対する当裁判所の判断は以下のとおりである。

二十 被告人丸山の弁護人藤田馨の控訴趣意について

一乃至四(事実誤認及び理由のくいちがい)について、

よつてまず、原判決の被告人丸山に対する通貨偽造被告事件に関する犯罪事実認定の当否を検討するに、原判決は同被告人は行使の目的を以て被告人大村、同相良等と共謀の上千円札の偽造を完成したものと認定判示し、これを通貨偽造罪の共同正犯に同擬しているのであるところ、一件記録に徴すると、被告人丸山は昭和二十五年五月上旬頃被告人丸茂から被告人大村、同相良に紹介され、その際同人等から千円札を偽造するにつき刷版を作る必要があるから、真正の千円札を写真撮影し、その拡大原画を製作して貰いたい旨の依頼を受け、同人等が行使の目的を以て千円札偽造を共謀している情を知り乍ら直ちにこれを承諾し、その頃右相良の依頼を受け写真器及び附属薬品等を買い整え、同人等の指示に従い原判示被告人相良方居宅で新しい千円札を復写撮影した上、分色引伸をなし、同年八月中千円札の表三枚、裏二枚の分色拡大原画を製作し、その後仕事場を原判示被告人丸山方に移し、右原画の修正に従事し、同年九月頃一応依頼を受けた仕事をなし終えて右原画五枚を偽造の一味である被告人丸茂に引き渡したが、その後は被告人大村からその他被告人長田辰雄を除く原判示第一の被告人等が右被告人丸山から受け取つた右原画を基礎として諸般の工程を進め、原判示第一のとおり千円札の偽造を完成したもので、被告人丸山は前記のとおり原画を引き渡してからは、右の被告人等とは交渉を断ち、その後の偽造工程には全く関係せず、要するに被告人相良等からの依頼を受け、偽造の準備行為としての拡大原画の作成に当つたものであることが認められるのであつて、いまだ被告人相良等と共謀の上本件通貨を偽造したものとは認められない。して見ると、被告人丸山は被告人相良等の本件通貨偽造の遂行を容易ならしめてこれを幇助したものにほかならず、従つて通貨偽造の従犯の責を負うに止まるものと認めるべきであるから、原判決が前記のとおり被告人丸山を通貨偽造罪の共同正犯に問擬したのは結局事実を誤認したもので、且つその誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかであるといわなければならない。もつとも論旨はこの点について、被告人丸山のした所為は原画の作成で通貨偽造の準備行為に過ぎず、いまだ実行に着手したものでない、しかもその準備行為も技術が拙劣なため失敗に終つたので、同被告人は偽造の実行着手前に自己の意思に基き、これを中止し、他の共犯者等の承認を得て、機械、原版等を被告人相良等に返してしまつたものであるから、他の共犯者等の偽造行為について何ら刑責を負うべきものではない旨主張するから按ずるに、被告人丸山は被告人大村、同相良等の依頼に応じ分色拡大原画五枚を製作し、修正の上これを同被告人等に交付し、同被告人等の原判示第一の通貨偽造の基礎とさせ、その犯罪の遂行を容易ならしめて、これを幇助したものであることは前記認定のとおりであつて記録を調査しても技術拙劣のため失敗に終つたものとは認められない。記録を調査してもこの認定に所論のような事実の誤認があるとは認められない。しかるところ、いやしくも他人が或る犯罪を企図していることを知り乍ら、その犯罪の遂行を容易ならしめて、これを幇助したものは、その他人がその犯罪を実行したときは、正犯を幇助したものとして、従犯の責を免れることができないものであり、その幇助行為のなされた時期はその他人が犯罪の決意をした後である限り、いまだ実行に着手せず、準備の段階にある間であると、既に準備の段階を終え実行に着手した後であることを問はないものと解すべきものであるから、幇助行為がなされた後において、幇助者においてその他人との関係を断ち、同人もこれを容認したとしても従犯の責を免れることができないことはいうまでもないところである。なおまた、通貨偽造準備罪は、犯人が準備行為を進めて偽造実行の段階に達したときは、もはや通貨偽造罪に吸収されて独立の犯罪ではなくなるのであるから、通貨偽造の準備行為の段階においてこれを幇助したものも、右準備行為が正犯者によつて進められ通貨偽造の実行の段階に達したときは、通貨偽造の幇助者としての責任を負うべきものと解せられるから、これに対し通貨偽造準備罪の規定を準用する余地はない。それ故右被告人丸山が準備行為をして被告人相良等の通貨偽造の犯行を容易ならしめてこれを幇助したこと前記認定のとおりである以上、右被告人丸山が右通貨偽造の従犯の責を負うべきことは勿論である。従つてこの点に関する前記主張は採用することができない。

しかしながらこれを要するに原判決の被告人丸山に対する前記犯罪事実の認定には前記のとおり事実の誤認があり、且つその誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、結局事実誤認の論旨は理由がある。原判決はこの点において尓余の論旨につき判断するまでもなく破棄を免れない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 荒川省三 判事 中浜辰男)

弁護人藤田馨の控訴趣意

一、原判決ハ理由ニクイチガイガアツテ事実ノ誤認ガアル即原判示ハ被告人ノ通貨偽造ノ判示事実ヲ認定スルノニ各相被告人ノ各公判廷ノ供述及証人佐竹勝一郎ノ証言ヲ以テ其ノ証拠トシテ挙ゲテ居ル

二、然シナガラ証人佐竹勝一郎ノ証言ニヨレバ原版ヲ見タトコロ白黒ガハツキリ出テ居ラズ全然駄目ダツタノデ駄目ダト云ツタ大村以外ノ三名ハ紙幣ヲ造ルコトハ駄目ダト納得シタ旨ヲ述ベテ居リ、之ニ被告人ノ一貫シタ供述及相良被告人丸茂美雄被告人其ノ他関係相被告人ノ各供述ニヨレバ被告人ハ原画ガ其ノ撮影ノ技術ノ拙劣ノタメ機械原版ヲ相良丸茂ニ返還シテ被告人ハ手ヲ引カセテクレト申向ケテ通貨偽造ノ仕事カラ脱退シタ趣旨ノ事ヲ述ベラレテ居ルノデ被告人ノ演ジタ役割ハ通貨偽造ノ準備行為デシカナク未ダ其ノ実行ニ着手シタモノデハナイ

三、而シテ被告人ハ未ダ実行着手前ニ自己ノ意思ニ基キ之ヲ中止シタノデアリ之ニ対シ他ノ共犯者モ之ヲ認メタノデアルカラ尓余ノ共犯者ノ通貨偽造行為ニ対シテ何等刑責ヲ負担スベキモノデハナイ

四、被告人及原審弁護人ハ原審ニ於テ例ヘ被告人ノ行為ガ実行ニ着手シタモノデアツタトシテモ直ニ自己ノ意思及被告人ノ技術ノ不良ナコトニ基因シタ相被告人ノ要請ニ基キ中止シタノデアルノデ刑法第四十三条ノ中止未遂罪ノ減軽又ハ免除ヲナスベキコトヲ主張シタノデアルガ此ノ事実ハ前掲各証拠ニヨツテ明瞭デアルノミナラス

五、原判決ハ此ノ点ニ付テノ被告人ノ主張ニ対シ何等ノ判断ヲモ示シテ居ラナイ

六、以上ノ理由ニヨリ原判決ハ破毀サルヘキモノデアル

(その他の控訴趣意は省略する。)

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